以下の発言は黒木昭雄氏のサイト現場警察官への応援歌『新・警察ご意見板』への投稿として
今井亮一氏が裁判所に提出したものを元の形式に再現したものです。


投稿時間:00/07/31(Mon)21:44
投稿者名:今井亮一
Eメール:r-chang@fb3.so-net.ne.jp
URL :http://www.geocithies.co.jp/MotorCity.1103/
タイトル:赤坂署カラ支給事件 裁判の発端

>これは『おまわりさんは税金ドロボウ』(オルタブックス・共著)の、私
>の執筆部分の22〜25ぺ一ジのことを言ってるんですね。微妙に当たって
>ような当たってないような(笑)。
>あとでどこかに掲示しときょ。
>手元にそのフロッピーディスクが見当たらないんですが、編集部にはあるはず
>なんで。

編集部から送ってもらいました。赤坂署の参考人カラ支給についてのあの裁判は、私にとってはここから始まった
のです。
なお、同書は1998年1月5目発行。

    ********************

【「やる気茶屋」での密談】
 あれは1996年の5月8目頃だったろうか。寺澤有氏から「一杯やろうよ」との電話があった。
 寺澤氏は、食いついたら離れない正義感と取材力とで警察の不正を暴きまくる気鋭のジャーナリストだ。ジャーナ
リズムの本質は権力の不正を追及することにある。その意味で彼は本物のジャーナリストの1人といえる。いや、お
世辞じゃなく本心から。
 一方ボクは、全国の多くの読者から相談を受けながら、交通取り締まりに納得できないときどうすればいいのかと
いう問題を専門としている。「交通ジャーナリスト」として紹介されることもあるが、どちらかといえばカウンセラ
一に近いと思う。寺澤氏とはだいぶ違う。年齢もひと回り以上離れているし。
 けれど、彼とは92年の秋に共著で『知らないと損する交通違反の裏のウラ』(恒友出版)を出したことがあり、警
察の不正を突く点が共通してもいて、けっこう話が合う。それで、ときどき会ったりしていた。
 その寺澤氏から、久しぶりに電話があったのである。ボクは基本的に酒の誘いを断らない。たまには情報交換でも
しようかと、直ちに応じた。
 東京都・吉祥寺駅そばの「やるき茶屋」というチェーンの居酒屋に入り、大座敷の小さなテーブルを挟んで座っ
た。寺澤氏はごそごそと数枚のFAXを取り出した。5月10目発売の雑誌『噂の眞相』(噂の真相)6月号に彼が書
いた記事のゲラだという。
 その雑誌なら毎月楽しみに購読している。どうせ間もなく発売される雑誌のゲラを、騒々しい居酒屋で黙々と読ん
でもなあ……と思ったが、寺澤氏は「まあいいから読んでよ」としつこい。彼は言い出したら引かないのだ。
 で、仕方なく読んだ(タイトルと内容については本書[STAGE 1]にあるので省く)。そして驚いた。
「さすが寺澤クン、すっごいネタをつかんだねえ! 参考人には目当が支払われることになってたんだ。知らなかっ
たなあ。いや、こりゃすごいよ、ほんと!」
 当時、自治体のカラ出張や、税金を湯水のごとくつかっての官官接待や官民接待が続々と暴かれ、問題になってい
た。税金と権限が集中するところに腐敗は付き物。情報公開条例のおかげで、腐敗を明るみに引き出し、正すことが
可能なわけだ。ところが、警察に関することはすべて同条例の対象外。闇に包まれている。そのため、警察はどの
官庁より裏ガネにまみれているといわれる。その根はそうとうに深いらしく、元警視監・松橋忠光氏の有名な著書
『わが罪はっねにわが前にあり』(オリジン出版センター。社会思想社の文庫にも収録)にはこう書かれている。
《警察社会における不義の実態は簡単なことである。いわゆる「二重帳簿」方式の予算経理による裏ガネづくりが、
中央からすべての都道府県にわたる全警察組織において行なわれていることである》
 警視監といえば警視総監につぐ階級。高級警察官僚である。そういう人がそこまで言い切ってしまうほど腐敗しき
っているわけだ。
 警察の裏ガネのことは、他の元警察官たちの本にもしばしば出てくる。もはや"公然の秘密"といっていいかもし
れない。だが残念なことに、これまでは証拠がなかった。そこに寺澤氏が、「呼出簿」という動かぬ証拠を入手して
スクープ記事を書いたのである。だからこれは本当にすごいことなのだ。

【ちょっと待ってよ、なぜボクが?】

 そんなことをしばらく話すうち、寺澤氏は言った。
「とりあえず、監査請求しなきゃね」
「うん。そりゃそうだな。やれば?」
「ええ〜、だって自分で記事を書いて自分でやったら"マッチポンプ"みたいじゃん。そんなのイヤだよ。それに、
期間の問題があるから」
「期間の問題?」
「監査請求ってのは地方自治法(第242条第2項)で、不正があってから1年を経過するとできない、ただし正当
な理由があれば遅れてもかまわない、ってことになってるわけ」
「ふうん、そう」
「今回のカラ支給が行われたのは93年1月から10月にかけてで、2年も前のことでしょ」
「だってキミ、『呼出簿』を入手したのは最近のことなんだろ?」
「だけどさあ、ぼくが監査請求をやったら必ず、入手したのはいつだ、誰からいつ入手したんだ、ってことになるに
決まってんじゃない。そんなので門前払いされたら意味ないもん」
「情報源は極秘なわけか。困ったね」
「そう。だから今井さんがやれば、『本件は情報公開条例の対象外であり、不正など知りようがなかった。雑誌の記
事を見て初めて知った』って言えるわけですよ。期問の問題をクリアできるでしょ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでボクにふるのよ」
 当時ボクは、『市民流"裁判ゲーム"』という本(恒友出版)を書き始めたところだった。東京は六本木の、幅が
広いわりに行き止まりのような道路で自分が駐禁レッカー移動をされたのをもとに、3つの裁判を自ら望んで起こ
し、少し前にすべて決着していたので、そのオモシロ体験記を書いていたのだ。しかも、月2回刊のクルマ雑誌『ド
ライバー』(八重洲出版)で新しい連載を始めたばかりでもあった。とにかく忙しかったのである。
 だいいち、ボクは交通取り締まりが専門だ。よけいなことに手を出す余裕はない。監査請求なんてやったことない
し、とてもムリだよ。
 …と断りながら、引っかかるものがあった。参考人費用のことなど誰も知らないところからすると、こういう不
正は全国で目常的に行われている可能性がきわめて高い。警察は非常に風通しの悪い組織といわれ、警察官たちのな
かには、嫌々ながら不正に手を染めている者も少なくないだろう。珍しく証拠つきで不正が暴かれたのに、
外の人たちは雑誌を読む以上の何もしない、ということになれば、心ある警察官たちは絶望を感じるに違いな
い。誰かが外部から、監査請求という形で風を吹かせてやらねばならない。
 そしてボクは、目頃から雑誌や本でこう書いている。他の誰かをアテにして自分は何もしないというのは、社会人
として非常に無責任だ。憲法第12条に「この憲法が保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、これを保
持しなければならない」とあるが、その「国民」とは他の誰かではなく、自分自身なのだ、と。
 そうすると、ここで「他の誰か」に期待して知らん顔することは、己の信条を、そして全国の読者を裏切ることに
なる。ううむ……。ボクは寺澤氏に言った。
「わかった。じゃあ、次の締め切りが終わったら……」
「ダメですよオ。こういうのは雑誌発売からすぐにやらなきゃ」
「それもそうだろうけどさあ……」
「発売目の10目は金曜で、土目は都庁は休みだから、13目の月曜でいきましょ」
「ええっ?月曜かよ」
 寺澤氏は強引なのである。しかし言うことは正しい。よくわかる。酒の勢いもあり、よし、13目にやろう!とい
うことになった。

【2つの記者クラブ】

  ボクのもう1っの信条は、気は乗らなくてもヤルと決めたらパキパキ進めることだ。この大事な監査請求が、誰も
知らないところで密かに終わってはいけない。都庁の記者クラブに予告しておかねば。
 ということで5月10目、都庁の代表に電話した。「有楽」と「鍛冶橋」という2つのクラブがあると教えられた。
へえ、2っもあるのかと思いつつ、まずは有楽のほうに電話。FAXを送ってくれたら掲示板に出す、取材したい社
は行くだろう、とのとだった。鍛冶橋のほうは不在だった。
 ついでに監査事務局にも電話し、監査請求ってのはどうやればいいのか尋ねた。なにせ、初めてでさっぱりわから
ないのだ。すると、「住民監査請求の手引き」なるものを6枚FAXしてくれた。タイトルは「東京都職員措置請求
書とすること、「請求の趣旨」はなぜか1000字以内にまとめなければならないことなどがわかった。
 5月12日、監査請求書をつくっていると… (以下略)


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★ - 裏ガネの構造:組織と個人 - 今井亮一 00/07/25(Tue) 23:53 No.93