「スタッフ募集!ノルマあり」
こんな求人広告をだしても応募者は来ない。だからノルマに触れずに「やる気のある方歓迎」などと書くのがセオリーだ。
表に出さないだけで、業績考課の指針としてのノルマは必ず存在する。違うのはインセンティブ(報奨)の有無とモチベーション(動機付け)アップのやり方だ。一般的な会社では、インセンティブ+モチベーションアップの工夫をおこなっている。
なお、コミッション(歩合)だけがインセンティブではなく、ボーナスや昇進の査定も一種のインセンティブである。
兵庫県警捜査書類ねつ造事件
複数の自動車警ら隊員らが、検挙実績をあげるために、自転車盗などに架空の被害者をでっちあげたりと、捜査書類を偽造した事件。163人が処分され、虚偽有印公文書作成・同行使の疑いなどで元隊員13人を書類送検された。その背景には厳しいノルマがあり、県警本部長もその存在をみとめている。
兵庫県計捜査書類ねつ造事件(神戸新聞)
交通警察のノルマの前に、警察組織が公式にノルマを認めた兵庫県警察のケースをみておこう。
兵庫県警自動車警ら隊のノルマ
2004年、兵庫県警の自動車警ら隊が大量の捜査書類をねつ造していた事件が報じられた。神戸新聞によれば―――
- 月間ノルマを達成できなかったら未達成分を翌月に上積み。
- 達成しなかったら始末書を書かされ、目標達成のための対策案を求められた。
体育会系の営業会社も真っ青の厳しいノルマ制度だ。始末書はともかく、未達分の繰越しは、現場の警察官を精神的に追い詰めるはずだ。
このように刑事事件の検挙にさえ、ノルマを課していたことが明るみにでたわけである。では、交通違反の取り締まりはどうだろう?
神奈川県警のノルマ
交通警察官のノルマ
「ノルマはない!」
交通警察官は決してノルマの存在をみとめようとしない。
(ノルマはない………○×△ならあるけど………)
心のなかでつぶやいているのだろうか。
退職警官の暴露本などでもさんざんノルマの存在が伝えられているのに対し、現職警官の否定は徹底している。
2007年、ようやく手に入れた神奈川県警のノルマは『交通取締目安』というタイトルになっていた。2012(H23)年からは『交通取締指数』に変えられた。
2004~2006年、2011~2014年の検挙目標の抜粋した。
項目 | 2004 (H16) |
2005 (H17) |
2006 (H18) |
2011 (H23) |
2012 (H24) |
2013 (H25) |
2014 (H26) |
飲酒 | 14,000 | 10,410 | 10,000 | 2,400 | 2,000 | 1,767 | 1,326 |
速度 | 141,000 | 135,150 | 139,473 | 130,000 | 137,292 | 144,531 | 152,513 |
信号無視 | 28,000 | 23,780 | 23,606 | 40,000 | 32,745 | 33,373 | 28,261 |
歩行者妨害 | 7,400 | 6,685 | 7,295 | 12,400 | 10,705 | 10,638 | 9,641 |
一時不停止等 | 38,500 | 37,350 | 43,556 | 74,000 | 78,895 | 93,735 | 91,130 |
駐車 | 200,000 | 200,500 | 80,000 | 0 | 33,363 | 34,328 | 26,540 |
青空駐車 | 6,500 | 5,500 | 5,610 | 0 | 0 | 0 | 0 |
無免許 | 5,600 | 4,067 | 4,092 | 2,000 | 0 | 0 | 0 |
通区追越し | 38,000 | 35,584 | 37,319 | 50,000 | 50,000 | 48,680 | 45,801 |
整備不良等 | 7,000 | 7,204 | 7,944 | 5,000 | 5,000 | 5,101 | 4,086 |
夜間ベルト | 49,000 | 46,330 | 37,233 | 11,000 | 0 | 0 | 0 |
通行禁止 | - | 84,440 | 105,877 | 130,000 | 0 | 0 | 0 |
ポイント
- 駐停車
- 駐車監視員制度が導入された後、警察の検挙目標は極端に減った。
- 飲酒運転
- 飲酒運転根絶!を大々的に広報しながら、検挙目標を極端に減らしている。
広報していることと、やっていることが矛盾していると言わざるを得ない。
次の表は、各年度の表から小計以下の項目を抜粋した。
項目 | 2004 (H16) |
2005 (H17) |
2006 (H18) |
2011 (H23) |
2012 (H24) |
小計 | 535,000 | 597,000 | 502,005 | 525,000 | 350,000 |
その他 | 項目なし | 項目なし | 175,000 | 175,000 | 350,000 |
合計 | 845,306 | 850,000 | 700,000 | 700,000 | 700,000 |
表の構造において「その他」の存在理由がまったく分からない。
次にノルマと実績を比較してみた。
指定者 | 項目 | 2004 | 2005 | 2006 | |||
目安 | 実績 | 目安 | 実績 | 目安 | 実績 | ||
本部指定 | 飲酒 | 14,000 | 8,304 | 10,410 | 7,466 | 10,000 | working |
速度 | 141,000 | 141,937 | 135,150 | 145,316 | 139,473 | working | |
信号無視 | 28,000 | 22,933 | 23,780 | 22,695 | 23,606 | working | |
歩行者妨害 | 7,400 | 6,513 | 6,685 | 6,195 | 7,295 | working | |
一時不停止等 | 38,500 | 43,794 | 37,350 | 52,713 | 43,556 | working | |
駐車 | 200,000 | 193,480 | 200,500 | 203,825 | 80,000 | working | |
青空駐車 | 6,500 | 2,914 | 5,500 | 3,334 | 5,610 | working | |
署指定 | 無免許 | 5,600 | 3,738 | 4,067 | 3,635 | 4,092 | working |
通区追越し | 38,000 | 40,295 | 35,584 | 42,879 | 37,319 | working | |
整備不良等 | 7,000 | 7,361 | 7,204 | 8,415 | 7,944 | working | |
*夜間ベルト | 49,000 | 243,719 | 46,330 | 196,092 | 37,233 | working | |
通行禁止 | - | 112,448 | 84,440 | 140,929 | 105,877 | working |
どれもがノルマに近い数の検挙がおこなわれている。
非開示の理由
部署ごとの内訳を黒塗りにした理由を、県警交通指導課は次のように記している。
公開することにより、交通取締り事務に関し、違法又は不当な行為を容易にし、公平な取締り事務に支障を及ぼすおそれがある情報及び犯罪の予防等その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのある情報に該当するため。
この非開示理由は、次のふたつを前提としているようだ。
- 取締りによって公共の安全と秩序の維持がもたらされている
- 現在の取締りが公平に行われている。
さて、どれほどのドライバーとライダーが、県警のいう前提に納得するだろうか…。