「人身事故が多発している!」
ニッポンの警察は、これを大々的に広報することによって、規制強化、罰則強化、そして取り締まり強化を繰り返してきた。
一方、こうしたセンセーショナルな警察広報は、もともと情緒的なニッポン人の不安をアオり、「厳罰化やむなし」の風潮を形成する原動力となっている。と同時に、交通規制と取り締まりに対するドライバーの不満は封殺されてきた。
ところで交通事故の統計は、どのようにつくられているのだろう。
交通違反のカウント方法
交通事故統計の前に、交通違反の検挙数がどのように統計されているかをみておこう。
右は交通反則告知書(通称、交通キップ)だ。ほかに駐車違反用のキップがある。
下部に反則金の額が記され、その下には、
「道路交通法第126号の規定により上記の通り告知します。」
と書かれている。
この交通キップは複写式となっていて、違反者用シートの下に別のシート『取締り原票』がある。
マウスをあわせると『取締り原票』が表示されます。
『取締り原票』の最下部は、<違反登録票>となっている。これを入力することによって、交通取り締まりが実績となり、統計に加えられている。
<違反登録票>の最下段は、違反に振られた番号を入力する欄となっている。複数の違反がある場合は、違反点数が大きいものを左側に書くことになっている。
警察情報管理システム
すべての警察署には、警察情報管理システムの端末がおかれている。このシステムは、ネットワークで警察庁の警察情報管理システムにつながっている。
「今はオンライン化されたのでもみ消しはできません」
こう警察官が言うようになったのは、オンライン化されたシステムに入力することによって、自動的に統計に加えられていくからだ。
人身事故のカウント方法
反則キップの下にあるのは、「警察情報管理システムによる運転者管理業務の運用基準」の改正について(平成14年5月17日発の通達)から複写した。
交通警察官が入力する警察情報管理システムの画面には、<違反登録(票)>と<事故登録(票)>の2種類がある。
まず、『取締り原票』と<違反登録>を比べると、様式は完全に一致する。『取締り原票』を見ながら違反を登録するのだから当然といえば当然。
次に、マウスをあわせて表示される<事故登録>を<違反登録>と比べてみよう。違うのは、最下段の〝事故内容〟という項目の有無だけだ。
つまり、交通違反の延長に事故があるという様式設計となっているのである。
人身事故の要件
人が血を流して倒れているような事故が人身事故なのは当然だ。ここで取り上げるのは、人身と物損のグレーゾーンのどこに線が引かれているかである。
<事故登録>→事故内容→被害種別には、物損、傷害、傷害仮停止、死亡、死亡仮停止の5項目がある。この項で、傷害または傷害仮停止と入力すれば、それが人身事故としてカウントされる。なお人身事故かどうかは、医師の診断書の有無によって決められる。
ちなみに、ニッポンの医療は出来高払い制なので、病院にかかって「診断書を書いてほしい」といえば、診断書は手に入る。
(参照→出来高払いの医療システム)
人身事故
記者クラブを通じて、報道されるのはセンセーショナルな大事故ばかりだ。
だからつい、交通事故というとこうした悲惨な大事故をイメージしがちだ。しかし現実には、悲惨な大事故はほんの一部に過ぎない。
本サイトでは、一握りの大事故を通すのではなく、マクロ的な視点でとらえたシステム全体の問題点を追求しています。
参照:非科学的な交通捜査
刑事事件としての軽症事故
医師の診断書が出されると、交通捜査係の警察官は、業務上過失傷害事件としての書類をつくらなければならない。<事故登録票>は、これが終わってからの入力となる。
ただし、検察庁は軽症事故を立件しない方針を明確にしており、警察庁との協議を経て、簡約特例様式という簡略化された書類が規定されている。
交通捜査係の警察官がするのは、送検しても立件されることのない〝事件〟のために書類をつくるという虚しい作業(=捜査)だ。
点数の高い違反が事故原因
なお、違反名欄の書き方については、通達に次のように記してある。
「左欄から違反点数の高い順に違反コードを記入する。」
このことは、警察官の認定した違反、それも違反点数によって統計上の事故原因が決められていることを示している。
ニッポンは極端に規制速度が低いので、とうぜん警官が速度違反を事故原因と認定する確率は高くなる。
同様に、酒気帯びの基準を厳しくすれば、警官が酒気帯びを事故原因と認定する確立も高くなる。こうして、規制強化の悪循環が繰り返されるのだろう。
流れ作業の行政処分
警察情報管理システムは、運転免許本部にもつながっている。
神奈川県警では、1日におよそ4400件の行政処分を行っているそうだ。そのチェックをするスタッフは7名とのことなので、1人あたり1日628件、実働時間を7時間とすると、1時間に90件を処理する計算になる。
そうすると1件の処理時間はわずか40秒となる。この時間でできるのは、誤入力をチェックする程度の単純作業だろう。
「行政処分は公安委員会が決めている」
これはキップを切った警察官が責任転嫁をするためのウソである。
現実には、警察官がキップを切れば半自動的に処分されている。
異常に多い人身事故
走行キロあたりの人身事故件数
交通安全白書はインターネット上に公開されている。左の図表は平成17年度版に収録されたデータ「諸外国の交通事故発生状況」から必要な数値を抜粋し、計算した。走行億キロ① | 人身事故件数② | ②/① | |
アメリカ | 44,603 | 1,963,000 | 44.01 |
カナダ | 3,158 | 159,667 | 50.56 |
オーストラリア | 1,999 | 17,528 | 8.77 |
ドイツ | 6,572 | 354,534 | 53.95 |
日本 | 7,934 | 947,993 | 119.48 |
イギリス | 4,607 | 228,535 | 49.61 |
スウェーデン | 668 | 18,365 | 27.49 |
オランダ | 1,250 | 31,635 | 25.31 |
内閣府が発行する『平成17年判交通安全白書』より作成した。
このように他国と比較するとニッポンの人身事故は極端に多い。
国家的な異常事態としか言いようのないありさまだ。
そこで、人身事故が多くなる要因を考えてみると―――
- 日本を走っている車は安全性が低く、乗員がケガをしやすい。
- 日本人は肉体がもろく、事故で簡単にケガをする。
- 日本の人身統計には、欧米でカウントしない事故が入っている。
さて、あなたはどれが原因だと思いますか?