お役所のビジネスモデル

ゴールド・ラッシュ
19世紀中頃のアメリカ。西海岸で金鉱が発見されたとのニュースが東海岸にも伝わり、一攫千金を夢みる人々は西に向かった。彼らは豊かさを手に入れようと悪銭苦闘したが、多くの夢は泡と消えた。そんななかで着実に儲けたのは、ジーンズのリーバイスに代表されるような鉱夫たちの道具を供給した事業家たちであった。

ゴールド・ラッシュから100年後のニッポン。
戦後の混乱が一段落したころから、人々は豊かになろうと一所懸命に働いた。そうして数十年が経ち、平均的な日本人たちは、お金があれば買えるモノが増えたことを除けば、少しも豊かになっていないことに気づいた。一方、確実な豊かさを手に入れたのは、“奉仕者”を標榜(ひょうぼう)するお役人たちであった。

役人天国の現実

ITバブルの当初、野心ある経営者たちは、ゴールド・ラッシュをモチーフにしたビジネスモデルを展開した。やがて、甘い戦略は崩れ、非情な競争原理が野心家たちの夢を砕いた。

そして長い不況は続き、ふと気がつくと、社会は2極化していた。いわゆる、勝ち組と負け組である。テレビ欄をみると、この2極化をおもしろおかしく表現した番組が毎日のようにゴールデンタイムに並んでいる。

貧乏バトル、セレブの華麗な生活、夢の田舎暮らし ―― etc.

勝ち組/負け組というステレオタイプな表現がもたらす悪影響はさておき、明快なのは、公務員と非公務員(民間人)の2極化である。

わかりやすく言うと、非公務員(民間人)には勝ち組/負け組が広範囲にひろがっているのに対し、公務員のほとんどが、何の危機感もなく勝ち組づらをしているのである。

さて、公務員が手に入れた豊かさのうち、表面的な豊かさ(右図参照⇒)だけを見ても、とうてい“奉仕者”にはそぐわないものだ。そして、公務員たちは、ウラ側にさらなる豊かさを持っている。

それでは、公務員のウラ側の豊かさを可能にした「お役所のビジネスモデル」をみてみよう。

お役所のビジネスモデル その1

市場のコントロール/お役所のコントロール

一般的な自由経済社会においては、主として市場原理が、企業と消費者のバランスを保つ機能を持つ。良い商品は評価され、悪い商品は市場から見放される、という仕組みだ。しかし、ニッポンにおいては、さまざまな許認可や規制が市場をコントロールしている。

市場のコントロール
お役所のコントロール

こうしたお役所のコントールは、古い大企業を守る方向に働いている。そして、お役所に守られた業界の企業は、競争不要のぬるま湯状態にどっぷりとつかっている。

司法のコントロール/お役所のコントロール

一般的な法治国家においては、まず市場原理によって、消費者をないがしろにする企業を排除されることが期待されている。良い商品は評価され、悪い商品は市場から見放される、という仕組みだ。そして、法令違反には司法が関与する。しかし、ニッポンでは、企業の法令違反に対しも、司法ではなく行政が積極的に介入する

法治国家の基本
お役所のコントロール

 

業界団体とお役所の利益

ニッポンの現実

このようにお役所が、企業にかかわり合おうとするのは、各種業界団体(公益法人等)をつくり、そこで甘い汁を吸うためである。

こうして設立される社団法人○×協会や、財団法人◎◎協会といった業界団体には、お役所から天下りするための指定席が用意されている。

こうしたシステムによる行き過ぎた規制が、健全な競争を阻み、社会の自由な活力を失わせている。それに、十分な競争が行われないことによって、不利益を被るのは消費者である。

諸外国は、こうした日本の排他的なシステムに対し、公正で自由な競争原理と自己責任の原則への転換を求めている。

リテラシー

ゴールドラッシュに限らず、ひと握りの成功者の影には、その数十倍、数百倍、あるいはそれ以上の不成功者が存在するものである。
しかし、テレビは、ひと握りの成功者ばかりを持ち上げている。


ゴールドラッシュをモチーフにしたビジネスモデル

IT時代のゴールドラッシュは、ヤフーや楽天などのポータル系や通信系に代表される。しかし、ITそのものは、目的のための道具であることから、ITの利用を促すサービスは、すべてゴールドラッシュをモチーフにしているといっても過言ではないだろう。


お役人(地方公務員)
の表面的な豊かさ
警察官の平均月収
給与 360.284
生活給的手当 53,208
職務給的手当 12,952
超過給的手当 85,279
その他手当 602
合計 512,325
高校教師の平均月収
給与 403,225
生活給的手当 42,651
職務給的手当 24,732
超過給的手当 651
その他手当 923
合計 472,182
一般行政職の平均月収
給与 350,657
生活給的手当 41,392
職務給的手当 12,044
超過給的手当 25,971
その他手当 377
合計 430,442
※期末手当、勤勉手当、寒冷地手当、その他特殊な手当は含まない。

平均退職金  
警察官 2521万円  
高校教師 1024万円  
一般行政職 1962万円  

地方公務員給与制度研究会編「地方公務員給与の実態(H16)」より抜粋

警察官の平均年収
※上記の全国平均値に神奈川県の期末手当の実績(H16年)4.4ヶ月分をのせて計算した。
平均月収(512,325)×12
  6,147,900
ポーナス
(期末手当)
1,582,500
合計 7,730,400

警視正以上の階級は、国家公務員となるので、警視以下の職にある者を対象とした数字。

事実上のヤミ手当て

公的費用で建設される住宅は、低所得者や高齢者など経済弱者のほか、公務員のために使われています。

これら公務員宿舎は、驚くほど安く貸し出されており、民間住宅との差額分が事実上のヤミ手当てだといえる。
(参照:禁断の公営住宅

衣食が足りた日本も、住に対する豊かさにおいては、先進国の中で最低だ。

こうした住の問題において、公務員と非公務員が問題意識を共有できない現実は、とても残念なことである。

お役所のビジネスモデル その2 -資格ビジネス-

各省庁が権益を広げようと努力した結果、無数の公益法人ができてしまった。しかし、賛助会費と補助金だけでは不十分と考えたお役人たちは、これら公益法人が安定して利益を吸い上げるシステムを次々に導入した。そのひとつが資格ビジネスである

警備業(交通誘導員)のケース

交通誘導員には、1級2級の検定があり、これら検定を受けなければ、補佐的な業務しかすることができない。この検定料金は23,000円である。法律では、「検定を行うことができる」と行政介入の余地をつくり、そして、法律の下につくる政令でその費用までを具体的に定めるのである。(参照⇒「官僚主権の現実」)

これで、全国各地の警備業協会は、「法令で決まっている」との言い訳を確保するのである。この仕組みは、運転免許にかかわる各種講習も同じであり、警察に限らず、すべてのお役所で多用されている。

お役所(ここでは警察庁)のビジネスモデルは、検定だけではない。新たに交通誘導員を採用した企業には、基本教育15時間以上、業務別教育15時間以上、合計30時間以上の研修を義務付けている。研修では、全国警備業協会が編集・発行する教本を利用させる。そして、警察庁の担当部局には、教本の監修料が落ちることになる。さらに、こうした教育の責任者には、また別の資格が設けられている。そして、教育責任者用の検定や講習や教本があって・・・と続く。

「でも、事故にならないためにはこうした検定や講習も必要では?」
こんなご意見もあるだろうが、高コスト構造は必ず消費者や納税者にはねかえるものである。それに、警備の基本計画に問題があって事故がおきた場合においても、警備業者も警察も責任逃れに終始している

ついでに書けば、交通誘導員に必要なのは、的確な状況把握力とスピーディーな判断力であって、道路法や道路交通法の知識ではない。これを言い換えると、的確な状況把握とスピーディーな判断ができなければ、交通誘導員としては不適格なのである。

不適格な資質に法律知識を詰め込んだ交通誘導員が大量発生していないことを願いたい。

資格手数料ビジネス
警備業法
第11条の2(検定)
 公安委員会は、警備業務の実施の適正を図るため、国家公安委員会規則で定めるその種別に応じ、国家公安委員会規則で定めるところにより、警備員又は警備員になろうとする者について、その知識及び能力に関する検定を行うことができる

警備業法施行令
第1条(検定に係る手数料)
 警備業法(以下「法」という。)第16銃おの3の政令で定める者は、法第11条の2の検定(以下この上において単に{検定}という。}を受けようとするものとし、同条の政令で定める額は、次の表の上欄に掲げる警備業務の種別に応じ、それぞれ同表の下欄に定める額とする。
警備業務の種別 政令で定める額
1 法第2条第1項第1号又は第3号に該当する警備業務であって、国家公安委員会規則で定めるもの 23,000円
2 第1号に掲げる警備業務以外の警備業務 22,000円

官栄えて、民滅ぶ

脱亜入欧(アジアを脱し、欧州に入ろう!)がスローガンだった明治時代からおよそ100年が経過し、日本はすっかりアジアを脱してしまった。しかし、欧州各国に並ぶことはできなかった。

さて、明治時代の近代化が官主導であったことは、まぎれもない事実である。しかし、当時の官僚たちは、日本が他国に遅れていることを自覚していた。

現代の官僚たちは、問題を自覚するどころか、構造的な問題を覆い隠しているようだ。その一方で、日本経済の潜在力をアピールしている。しかしながら、人一倍の努力家であった日本人は、うんざりするほどの役人天国を見せつけられることによって、もはや努力する意気を失っているようだ。

リスクを乗越えた成功
/リスクのない安定

社会の活力は、リスクを恐れぬ野心や、夢を実現しようとする努力によって、生まれるものだ。
多くの人々が、野心や努力を忘れ、安定を求めるようになったとき、社会は活力を失い、そして衰退する。