交通安全運動に交通安全の効果はあるのか?

官民を合わせても日本最大のイベントが交通安全運動である。 全国の警察官が街頭に立ち、信号に合わせて勇ましく笛を吹きまくる。 春と秋の2回開催される国家イベントであるが、中心で旗を振るのは警察だ。 新聞社とテレビ局のほか、お役所の外郭団体がメインスポンサーとなる。

交通安全運動の起源

交通安全運動は、失墜した警察の威信を回復するために実施された警察イベントが起源である。まずは当時の状況をみてみよう。


こうして熱を帯びた民衆の警察不信に対し、警察は威信回復の方法を模索していた。そうして、自動車王国アメリカの町での警察イベントを知り、これを模倣したのが交通安全運動の起源である。

つまり、ほんとうの目的は「警察不信の解消」であって、「交通安全」は単なる名目だったのだ。

警察活動をアピールのための交通安全運動は、“交通安全を呼びかける”という基本形態をそのままに、現代まで続いている。

笛を吹くおまわりさん
交通安全運動のときだけ
交差点で交通整理をするおまわりさん

空虚な「交通マナー」と空疎な交通安全運動

“manner”
1.方法,仕方
2.態度,様子,挙動
3.行儀,作法
4.風習,習慣
5.流儀,様式,手法
6.《文語》種類
『マナー』
1.マナー
2.その場のやり方にふさわしい態度
3.行儀作法
4.「テーブル―」「ステージ―」▽manner

運転マナーは頻繁に使われる言葉だ。警察・交通安全協会・各自治体が道路に設置する看板には、「運転マナーを守ろう」といった標語が踊り、ルーレット族や暴走族を取り上げたワイドショーに出演した芸能人は、「やっぱりマナーの問題よね」と、迷惑運転を批判している。

しかし、マナーという言葉でイメージされるのは、フランス料理での食事作法や、接待での席順ではないだろうか? 一方クルマを運転することは、とっくの昔に高級レストランで食事をすることと違って日常的なこととなっているはずだ。

 

秩序の成立要因きっと、迷惑運転をしているドライバーが、「運転マナーが~」と言われても、その言葉に「運転の行儀や作法」をイメージし、耳を貸そうさえしなかったのだろう。

国語辞典の「マナー」に行儀作法とあるように、一般的に使われる運転マナーにも「運転の行儀作法」が含まれるはずだ。しかし批判される迷惑運転には、「行儀作法」のような高尚なレベルの行為だけではなく、もっと過激なルール違反が含まれている。 つまり、周りの人に単なる不快感を与える行為はマナー違反で、もっと現実的な害を与えてしまう行為は、マナー違反とは別のルール違反なのである。

日本人が「運転マナー」を使いたがる理由
“moral”
【形容詞として】
1.道徳(上)の,徳義の,倫理的な
2.道義をわきまえた,道徳的な
3.精神的な,心の
4.確信できる,間違いないと思える,事実上の
【名詞として】
1.《寓話などの》寓意,教訓;教言
2.[the(very)~]『古』生き写し
3.[pl.で単数扱い]終身,倫理学(ethics) 4.[pl.]風儀,品行

ついでに“morale”
n.《軍隊や国民の》士気,風紀
「モラル」
1.モラル 倫理。道徳。
2.「―に反する行為」「政治家の―」「男女間の―」
3.▽morals

 

 

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「マナー」の類義語として「モラル」がある。そこで「モラル」と「moral」をそれぞれ辞書で調べてみると、どうやら「モラル」と「moral」はイコールではなさそうだ。それに「モラ~ル」とフレンチっぽく発音する人をみたりすると、どうにも使いたくない言葉になってしまう。
さらによくみると、日本語の「モラル」には「男女間のー」と書かれている(英語の「moral」にはそれがない)。誰もが知っている「モラル」という言葉がいまいち浸透しないのは、そんなところに理由があるのだろう。

日本人が「モラル」よりも「マナー」を使いたがる理由はともかく、「運転の行儀作法」がイメージされがちなスローガンでは、いつまで同じことを続けても何の効果も上がらないはずだ。それ以前の問題として、「運転〇〇〇を守りましょう」や「交通安全宣言」のように、抽象的な標語を掲げたノボリやポスターや横断幕を乱立させることに効果があるとは思えない。