徹夜明けの朝、久しぶりにオートバイで遠出する気になった。寝袋とわずかな着替えを入れたナイロンバッグを後部シートに縛りつけた。〝始動の儀式〟を3回で終え、朝8時に走り出す。北へ向かうと決めているが、具体的なプランはない。
オロロンラインを北上
札幌から日本海に沿って北へ延びる道路は、オロロンラインと呼ばれる。途中には無数の絶景ポイントがあり、バイク雑誌の「夏の北海道特集」に欠かせない定番のひとつだ。ぼくは、運転に集中することで眠気を押し殺しながら、オロロンラインを北へとオートバイを走らせた。
そうして、札幌から20kmも走ると、クルマはまばらとなっていった。それでも時速70キロ以下で走っていると、次々に追い付いてきたクルマに抜かれていく。
バイクの上で眠気と闘い、そして風の抵抗をさけるために、立ったり伏せたり足を投げ出してみたり、いそがしくポジションを変えながら北上を続けた。
やがて、増毛(ましけ)の町が近づいてきた。増毛は毎年8月に開かれる日本海オロロンライントライアスロンのスタート地点となっている。この大会は、『鉄人レース』と呼ばれるトライアスロンのなかでも、日本一長い距離を走るレースとして知られている。ぼくは2年前にこの大会に出場したことがある。トライアスロンにでたのはそれが最初で最後だ。
そのレースでのぼくは、向かい風で大きくタイムロスし、自転車の区間を走り終えたところで棄権させられてしまった。
オートバイで同じ区間を走りながら、「よくこんなところを自転車で…」と自分でも感心する。どこまでいっても景色が変わらないのだ。もちろん、北海道らしい雄大な景色なのだが、オートバイで走っていてもウンザリしてくるほど同じ景色が延々と続くのだ。
展望台のある岬
初山別(しょさんべつ)の町を抜けると、太陽も大きく傾き、そろそろ寝る場所が心配になってきた。そんなとき前方の岬の先端に白いドーム上の建物を発見した。岬へ向かう道路の入り口には看板がある。
看板の示す岬の方へ進路をかえると、ほどなく、白い展望台に到着した。すぐ傍らには公営ホテルがあり、温泉にも入れそうだ。そしてキャンプ場には、キノコ状のバンガローが海に向かって並んでいる。ぼくは夕日が沈むのを眺めた後、温泉に入り、そして“キノコ”のひとつを借りた。ソロライダーにとっては最高の寝床だ。
それから展望台に入って、おおきな天体望遠鏡をのぞきこむ。数十万個の星団や、爆発した星の周りを囲むドーナツ状のガスが見えた。下の階には、この展望台の案内写真が並んでいる。どうやらテレビドラマ『白線流し』のロケ舞台だったらしい。
“キノコ”に戻り、寝袋にもぐりこむ。岬の絶好の場所に立つキノコの中は、だいたい8帖分くらいの広さだ。ひとりで寝るには贅沢すぎる場所で、ぼくは泥のように眠った。
窓から差し込む朝日で目がさめた。時計はないが、太陽の高さは朝6時頃を示している。ぼくは缶コーヒーを飲んですぐに出発した。
きのうより雲が多いが、ここまできたらサロベツ原野まで行かずには帰れない。天塩(てしお)のコンビニでおにぎりを買って、すぐそばの鏡沼キャンプ場のベンチで朝食にした。この場所は、ライダーが寝泊りするには絶好の場所なのに、夏休み前のせいか、バイクは4台しかない。