交通事故対策センターが「ぶつけられた方の意識の変化によって軽傷事故が増加している」と綴っているとおり、ゴネ得を理由とした軽傷事故が増加していることは明白だ。 追突事故は、事故の態様としては最も多く、診断の困難な傷病である。また、『ムチ打ち症』だといえば示談交渉が有利になり、長期休業保障の材料となり得るということは、誰でも知っている。 現在医学において、『ムチ打ち症』が患者の訴えを診断の根拠とするほかに有効な手段がないことが、こうした詐欺まがいの行為を蔓延させているしたら、軽傷事故の扱いを根本的に考え直す必要性があるはずだ。 医師の診断書と人身事故の関係
1 診断書の効力について 医師の診断は、まず問診によって推測をたて、その推測を科学的な検査によって、より確かなものにしていく。 頭が割れ、脳が露出している頭部損傷や、X線写真で明らかになる骨折等のように明白な場合ならともかく、たとえば、整形外科領域の『挫傷』『捻挫』『靭帯の損傷』等々の傷害は、通常病院で行われるCTやMRI等最新の検査機械をもってしても損傷の根拠を得ることはできないことの方が多いのだ。 もし、追突事故の被害者が、(痛くもないのに)「首が痛い」と言って、診断書を求めれば、医師は「頚椎捻挫」または「外傷性頚部症候群」と記載してくれる。 整形外科領域の損傷は、写真に写らなければ、問診によって、患者の状況説明と痛みの訴え(愁訴)で判断されるからである。 医師は、自らが診察した患者の所見に、全く問題を見出すことができなくとも、患者より診断書の依頼があれば診断書を書かなければならない。そして、たとえ患者の訴える愁訴が検査結果にあらわれなかったとしても、診断書に「異常なし」と書くことが、“患者の要望”に反することを、医師は知っているのだ。
それに、予想も付かない全く新たな傷病・疾病が存在する可能性を完全否定することはできない。したがって、医師は“無過失に”治療を要する(全治○○日)とする診断書を書くこととなる。仮病で学校を休もうとする中学生のウソを、医師が問い正そうとはしないのだ。
なお、「痛い」といって通院を続ければ、医師は仕方なく治療を続けるほかはない。患者の要求があれば診断書も出すしかない。そして診断書の傷病名欄には『頚椎捻挫』などの傷病名を必ず入れなければならない。こうして、医師は“無過失に”患者の要望に応えることになる。
2 ゴネ得詐欺の例
受傷の原因が、鈍的な圧迫であるなら「挫傷」とされる。同様に、一方向からの衝撃に対しては「打撲」、関節へは「捻挫」が使用される。これらの傷病は、科学的検査による根拠がなくても、患者の親告によって容易に診断されうるのである。
ところで、診断書は、損害保険請求の際のほか、学校や勤務先を休む際に提出を求められることもある。病院にとっての患者は客であり、客(患者)の要望に対して「異常なし」と診断書に記す無神経な医師はいない。さらに、現在の出来高払いの保険制度上では、医師の所見で問題なくとも、患者が痛みを訴えれば湿布や鎮痛剤を処方し、次の診察の予定を立てるのは当然のことなのである。
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