2000年の初稿を敢えてそのままにしています
トラックやタクシーには、さまざまな税制上の特典が与えられている。それなのに、警察の取締りは、一般乗用車に厳しく、トラックやタクシーに甘い。 |
相対的危険車両
大きなクルマほど安全で、相手の損傷は大きい衝突したクルマが相手に与える衝撃は、そのクルマが重いほど大きい。 ※乗員と荷物を含めた重量をトラック10トン、乗用車1.5トン、バイク0.2トンとしています。 |
片山隼君事件について
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大型トラックに甘い刑事司法
片山隼(しゅん)君事件において 隼君を轢いたトラックのドライバーは「轢いたことに気が付かなかった」と主張した。
ドライバーは本当に気付かなかったのかもしれない。なぜなら、目撃者がたくさんいる場所でひき逃げをするとは考えられないからだ。
ここで問題にしているのは、その運転手が「気付づいたか、気付かなかったか」ではなく、「大型車だから気づかなかったとしても仕方がない」という司法判断の現実だ。
そもそも片山隼君事件において、加害車両が乗用車だったら轢死に至らなかったかもしれない。それなのに、乗用車では通用しない「気付かなかった」という言いわけが、法廷においても通用する現実が問題である。
検察が加害者を不起訴とした後に、両親が「ひき逃げ犯をなぜ不起訴にしたのですか?」 と題して署名を集めたこと示すように、隼君が亡くなったことに増して、“ひき逃げ”であることが、遺族の心の傷を深くしたことに間違いはないだろう。
しかし、東京地検は、“ひき逃げ”を認めず、これを不起訴とした。この東京地検の判断は、加害者の「気付かなかった」という主張を覆す材料がない以上、仕方がないのかもしれない。しかしながら、相対的に危険度の高い大型トラックに特典が存在し得る現実は、どうにも腑に落ちるない。
痴漢は「出来心(できごころ)」、ひき逃げ犯は「気付かなかった」と口をそろえたように“言いわけ”をするものだ。
問題なのは、「気付かなかった」の“言いわけ”を信憑性のあるものにしてしまう大型車を、乗用車と一律に扱うシステムあるはずだ。
それに大型車が左折する際の歩行者の巻き込みは、対人死亡事故の代表的な事例であり事故数も多いのである。
(片山隼君事件は内輪差の問題ではないが、ドライバーの死角が問題を招いた要因であることには変わらない)
運転手が「気付かなかった」という主張が容易に認めるられる現実は、殺傷力の高い大型車が人を殺したときに、乗用車よりも罪が軽いという現実を作ってしまうのである。
その重量によって殺傷力が増す半面、人を轢いても「気付かなかった」との“言いわけ”が通るのなら、大型車の責任を拡大する必要性があるはずだ。
ひき逃げを増長する行政処分
知っていて逃げれば業過致死のほかに交通事故の場合の措置義務違反(道交通法第72条)となり、行政処分においては付加点数として10点が加算される。しかし「気付かなかった」が認められれば、単なる業過致死だ。(隼君事件において検察は当初不起訴とした) この運転手の行政処分がどのように行われたかを知る術はないが、法令に基づいて計算してみると、
- 安全運転義務違反2点
- 死亡事故付加点数9点*
- ひき逃げ付加点数10点
*交通事故が専ら当該違反行為をしたものの不注意によって発生した場合は(当時)13点だ。しかし、運転手の無線に気を取られたとの言い訳に「違反行為」を認めることは困難であろうとの理由で9点とした
合計21点だ。しかし、「気付かなかった」との加害者の主張によって、ひき逃げの付加点数は課されなかっただろう。もしそうだとすると、加害者ドライバーの行政処分は、事故付加点数9点と安全運転義務違反2点の合計11点である。もし運転手に前歴と累積がなければ免停で済むのだ。
後に発生する酒気帯びトラックによる死亡事故によって、ひき逃げの厳罰化が行われた。しかし、ひき逃げ事故は増加しており、悪循環が発生している。 (→ 厳罰化のスパイラル)
タクシー、トラックの事故データ
第1当事者の車種別交通事故発生件数
平成8年度 | 平成9年度 | ||||||
台数 | 事故件数 | 件数/1万台 | 台数 | 事故件数 | 件数/1万台 | ||
自家用 | 普通乗用車 | 40,059,758 | 418,330 | 104.4 | 41,088,532 | 426,531 | 103.8 |
軽自動車等 | 6,552,382 | 52,755 | 80.5 | 7,264,826 | 58,475 | 80.5 | |
事業用 | 貨物自動車 | 1,067,514 | 28,102 | 263.2 | 1,093,642 | 28,453 | 260.2 |
バ ス | 84,734 | 2,524 | 297.9 | 83,842 | 2,497 | 297.8 | |
タクシー等 | 256,572 | 18,763 | 731.3 | 257,872 | 19,776 | 766.9 | |
2輪車 | 250cc超 | 1,255,431 | 7,366 | 58.7 | 1,274,123 | 7,157 | 56.2 |
250cc以下 | 1,845,212 | 5,576 | 30.2 | 1,809,162 | 4,956 | 27.4 | |
125cc以下 | 1,390,327 | 5,060 | 36.4 | 1,366,558 | 5,033 | 36.8 | |
50cc以下 | 10,835,934 | 39,411 | 36.4 | 10,487,574 | 40,474 | 38.6 |
出展:平成10年版警察白書
自動車の台数は各年末、 軽自動車には事業用も含まれる
普通乗用車は、貨物自動車やタクシー等に比較すると1万台当たりの事故発生件数は少ないことが明かである。逆にタクシーの事故の多さには、目を見張るものがある。トラック協会やタクシー協会は、「1台あたりの走行距離が違うから1万台当たりをベースとすることは不公平だ」というかもしれない。しかし単に事故件数だけを取り上げるのでは、もっと不公平だ。